顔面が非常に痛い!!顔面神経痛になった!!と病院に行く方がいます。
まず最初に改めていただきたいのですが、顔面神経というのは顔の運動神経で、
痛みを感じる神経ではありません。医学的に顔面神経痛という病気はないのです
顔面の感覚は三叉神経という神経がつかさどっていますので、
顔面の痛みは三叉神経痛とよばれています。ここでは、顔面神経痛ではなく、
三叉神経痛という呼び名で、顔面の痛む病気について説明いたします。
【三叉神経痛】
三叉神経痛は、非常に古くから知られている病気で、顔面の激痛、
顔の一部に起こる数秒間続く発作性の電撃痛、の主症状とする病気です。
三叉神経痛の痛みは、電撃がはしるような、と表現されたり、
ナイフで刺されたような、と表現されるほど、非常に強い痛みです。
この顔面の痛みは、歯磨きや食事・洗顔・会話・髭剃り・顔に風が当たるなどの
刺激によって症状を誘発される事があります。
ひどい場合には、顔も洗えず、食事も摂れないほどの痛む状態になります。
三叉神経痛は、どの年代の成人にも起こりますが、特に中年や高齢者に発症し、
女性起こることが多い病気です。
痛みがあごに出た場合は、歯痛と間違われて、歯科で治療・抜歯を
受けて、それでも痛みが治らず、三叉神経痛に気づくこともあります。
また鼻に痛みが出た場合は、耳鼻咽喉科に受診し、副鼻腔炎の治療を受けて
それでも痛みが治まらず、三叉神経痛に気づくこともあります。
三叉神経は、おでこ・頬・アゴをそれぞれ司る3系統の神経ですが、
三叉神経痛は、頬から下顎の範囲で痛みが出ることが多いといわれています。
顔面神経痛(三叉神経痛)は、顔面の感覚神経である三叉神経を血管が
圧迫することによって起こるといわれています。さて、この三叉神経とは
どんな神経なのでしょうか?三叉神経について、詳しく説明します。
【三叉神経とは】
三叉神経は脳神経のなかで最も大きな神経です。延髄から出発した太い神経が、
やがて、眼神経、上顎神経、下顎神経の3本の大きな枝に分かれます。
そのため三叉神経という名前が与えられています。
●眼神経
眼神経は三叉神経のうちで最も小さな枝で、涙腺神経、前頭神経、
鼻毛様体神経に分枝しています。前頭部、眼、鼻の感覚を支配しています。
●上顎神経
上顎神経は、頬骨神経、眼窩下神経、上歯槽神経、などに分枝しています。
上顎部、上顎の歯、上唇の粘膜、頬粘膜、口蓋粘膜、などの感覚を支配します。
●下顎神経
下顎神経は、三叉神経の中で最も大きな枝で、咀嚼筋枝、耳介側頭神経、
頬神経、下歯槽神経、舌神経に分枝しています。
舌、下顎部、下顎の歯、下唇の粘膜、外耳の一部などの感覚を支配するほか、
咀嚼筋などの運動神経も支配しています。
【三叉神経の臨床的側面】
三叉神経の主鎖・眼神経、上顎神経、下顎神経の3本の分布領域には、
ほとんど重なり合いがないため、どれか一つの神経が犯されると、
その支配下の感覚は異常を来たしてしまいます。
三叉神経の太い部分が損傷されると、頭顔部の痛覚と温度覚の
消失または減弱、咀嚼の障害、言語の障害が生じます。
三叉神経が関与する多くの反射のうちで、角膜反射はとくに重要です。
これは、角膜が刺激されると眼が閉じる、という反射です。
片側の眼神経を損傷すると、同側の角膜の触覚と痛覚が消失するが、
反対側の角膜の刺激によって角膜反射能は保たれます。
しかし顔面神経がより広範囲に損傷されると、
角膜の感覚は健常であっても角膜反射が出来なくなってしまいます。
顔面のひどい痛み、顔面神経痛(三叉神経痛)は、どうして起こるのでしょう?
顔面神経痛(三叉神経痛)の原因を詳しく紹介します。
三叉神経痛の原因は、いまだ原因不明な場合も多々ありますが、
よく知られている原因の一つは、動脈の位置の異常です。
脳の出口付近にある動脈が、三叉神経を圧迫して痛みが起こっている場合です。
若い人に時々起こる三叉神経痛は、多発性硬化症による神経の損傷が原因です。
三叉神経痛はまれに帯状疱疹による神経の損傷や、
腫瘍が神経を圧迫した結果、痛みが起こっていることもあります。
【血管による三叉神経の圧迫】
脳の奥の脳幹部というところにある橋という部分から数mm以内に位置する
三叉神経根部(三叉神経が脳から出てきたところ)で、脳動脈硬化によって
蛇行した動脈が三叉神経を圧迫して痛みが出ている場合があります。
この三叉神経根部分は、最も弱い部分です。この部分が動脈による圧迫によって
神経を包んでいる鞘が痛んでしまうことにより、異常な神経結合がおこり、
過敏になった三叉神経が反応して、三叉神経痛が起こると考えられています。
【脳腫瘍】
三叉神経痛の5~10%が脳の良性腫瘍によって起こっているといわれます。
MRI検査で、三叉神経を圧迫している血管や脳腫瘍を発見することが出来るので、
三叉神経痛のある方は、MRIにより脳の精査を受けた方が良いでしょう。
【多発性硬化症】
多発性硬化症という神経の病気でも三叉神経痛は起こると言われています。
この場合は、三叉神経根への影響で痛みが出ていると考えられるため、
顔の両側が痛むことが多いといわれます。これは若年者に多い原因です。
顔面神経痛(三叉神経痛)の治療は、薬による治療と、神経ブロック、
脳外科の手術、さらにはガンマ・ナイフ放射線治療の4通りに分かれます。
【内服薬による治療】
三叉神経痛の治療で最も多く使われ効果があると言われているのは、
抗てんかん薬のひとつ・テグレトールという薬です。
この薬は、もともと、てんかんの治療に使われる薬ですが、
三叉神経痛の痛みを抑える効果もあることが分かってきました。
痛みはよく治まりますが、副作用としてふらつきなどの症状が出る場合があります。
しかし、この内服だけでは痛みを消失させることは出来ないため、
薬をずっとのみつづけなければいけない点が難点でもあります。
【神経ブロック】
一時的に神経を麻痺させる麻酔薬を、痛んでいる神経に注入する治療法で、
この場合、痛みを抑えられるのは一時的な治療です。
特殊な薬液や熱凝固システムも用いて、三叉神経の一部を、
半永久的に遮断する方法もありますが、顔面の一部のしびれや感覚の麻痺が
後遺症として残ったり、新たな難治性の顔面痛を生じることもあります。
【手術】
三叉神経と、それを圧迫している血管との間に、繊維でできた綿をはさんで
三叉神経への圧迫を取り除く、神経血管減圧術という手術があります。
これが現時点では最も有効は治療法と思われています。
手術が成功すれば、普通は手術直後から痛みが消失します。
入院期間は、通常10日~2週間程度でしょう。成功率の高い手術です。
手術で一旦よくなってから、しばらくして痛みが再発するケースもありますが、
これはごく少数の人にしか起こらないといわれています。
【ガンマナイフ】
ガンマナイフという放射線を病変のある部分に集中して照射する装置を用いて、
三叉神経の根本に放射線を照射すると、三叉神経痛に効果があるということが
分かってきました。
しかしこの治療法はまだ新しく、症例が少ないため、放射線の副作用など
未知である点が多いという問題点があります。
顔面神経痛(三叉神経痛)の治療として、現在最も効果的といわれているのは、
手術(神経血管減圧術)による治療法です。
ここでは、この手術の内容や、その安全性について詳しく説明しました。
【手術(神経血管減圧術)】
三叉神経痛の手術・神経血管減圧術とは、三叉神経痛の原因となっている
脳深部血管の三叉神経への圧迫を手術によって取り除く方法です。
全身麻酔をかけた後に、痛みのある側と同じ側の耳の、少し後ろの皮膚を
縦に約5~7センチ切開した後、その下にある頭蓋骨の一部に、
五百円硬貨程度の大きさの穴を開けます。
そして手術用顕微鏡で観察しながら、その穴から小脳と頭蓋骨の隙間に沿って
少しずつ視野を広げ、脳深部の三叉神経に到達します。
そのあと、慎重に三叉神経痛の原因となっている血管や圧迫の原因を探し出し、
それらを注意深く三叉神経からはがして、圧迫を取り除いた後に、
クッションとなる合成化学繊維を挿入、三叉神経が圧迫されないようにします。
【手術の危険性】
この手術の危険性は低いと考えられていますが、次のような危険性もあります。
●術後難聴、耳鳴り
三叉神経が、脳深部で聴神経という聴力・平衡感覚を司る神経と
近接しているため、術後に難聴や耳鳴りを生じることがあります。
●中耳炎
手術の際に削る頭蓋骨の場所が副鼻腔という場所であるため、
脳を満たしている水の一部が脳の外に漏れ出したり(髄液漏)、
その結果中耳炎を起こすことがあります。
●感染
開頭手術により脳,硬膜,皮下組織などが露出されてしまうため、
術中、術後に微生物による感染を防ぐため、抗生物質を投与します。
しかし完全に細菌感染を防ぐことは難しいため、患者の抵抗力が弱いと、
細菌性髄膜炎、脳腫瘍、皮下脳腫などの合併症を生じる可能性があります。
●眼球部の圧迫による失明
手術時間が長くなると、手術台に接している部分に褥創を生じたり、
眼球部が圧迫され続けることで失明をしたりする可能性もあります。
顔面にひど痛みが起こる顔面神経痛(三叉神経痛)の治療として、
現在注目を浴びているのはガンマナイフを用いた治療法です。
ガンマナイフとは、放射線の一種のガンマ線を用いて脳内を治療する装置です。
主に、脳動脈奇形の治療、聴神経腫瘍、髄膜腫、下垂体腫瘍など
3.5cm以下の良性腫瘍や、転移性脳腫瘍などの悪性腫瘍に効果があります。
放射線照射の誤差は±0.5mmと高精度であるため、重要な組織が密集している
頭蓋内でも、正常な組織にほとんど影響を与えずに治療することができます。
最近、ガンマナイフを三叉神経に照射すると、顔の正常な運動感覚神経を
保ちながら神経痛だけが消えてなくなることが分かってきました。
ガンマナイフによる三叉神経痛の治療では、ガンマ線を三叉神経の根進入部に
照射します。その結果、70-90%で痛みが完全に消失すると言われています。
照射後は、6%の患者に知覚異常が出現しただけで(その内2%は、
6週間以内に知覚異常は消失)、問題がなかったという報告もあります。
しかし、症例数は少なく、いまだ未知な部分も多い治療法ではあります。
また、このガンマナイフによる治療法は、現在保険が適応されなくなっており、
治療に高額なお金がかかることが難点とも言われています。
高齢者や子供など、開頭手術のような治療ができない症例には、
ガンマナイフは、体に対する負担が少なく痛みを取り除くことができるため、
今後さらに利用されるべき治療法でしょう。
なお、ガンマナイフは手術(神経血管減圧術)後の三叉神経痛再発例にも
有効であると報告されています。
顔面神経の病気として、痛みが出るわけではなく顔面にけいれんが起こる病気、
片側顔面けいれんという病気が知られています。
ここでは顔面けいれん(片側顔面痙攣)について説明します。
顔面神経痛・三叉神経痛と似た部分があるので、しっかり区別してください。
【顔面けいれん】
顔面けいれんは、顔の片側の筋肉がぴくぴくと痙攣し、引きつる病気です。
最初は、目の周り・まぶたの下のぴくつきから始まり、数年の経過で、
徐々に顔の片側全体に拡がることが多いようです。
症状が軽くなることはありますが、自然治癒する事は無く、進行性の病気です。
症状は緊張などのストレスによって悪化し、目の周りから頬のあたりまで
勝手にひきつるようになり、口が曲がった様な状態となることがあります。
目が開けられなくなり、つぶってしまう状態が続くこともあります。
特にこの病気は中年以降の女性に多いため、症状がひどくなると、
外出しなくなったり、人に会わなくなり、鬱病へと繋がることがあります。
顔面けいれんの原因は、顔面神経痛・三叉神経痛と同じように、血管が、
顔面の神経を圧迫することに因りますが、三叉神経痛とは圧迫される神経が
異なり、顔面けいれんの場合は、顔面神経と呼ばれる神経が圧迫されます。
顔面神経は、三叉神経より下側にあり、左右一本ずつあります。
右の顔面神経が顔の右半分の、左の顔面神経が顔の左半分の筋肉を動かす働きを
していますので、圧迫されている神経側の顔半分が痙攣するようになるのです。
顔面痙攣の治療には、三叉神経痛と同様に脳外科の手術を行う場合と、
顔面けいれん特有で、ボツリヌス毒素の局所注射を行う場合があります。
三叉神経痛と違って、顔面痙攣に効果のある薬はありません。
顔面がひどく痛む病気は、顔面神経痛(三叉神経痛)だけではありません。
顔面神経痛と区別しにくい病気、間違われやすい病気もあります。
ここでは、三叉神経痛以外の顔面の痛みを伴う病気を紹介します。
【帯状疱疹後三叉神経痛】
帯状疱疹はウイルスがおこす皮膚の病気で、水疱瘡ウイルスに似たウイルスが
原因となります。そのため、帯状疱疹の症状は水疱瘡のような小さな湿疹が、
多発・群発したあと、かさぶたになるのが特徴です。
帯状疱疹のウイルスは神経に潜んでいて、神経に沿って炎症を起こすので、
顔面では三叉神経の分布に沿って、皮疹・湿疹が表れます。
過去に顔に帯状疱疹がおこったことがあると、後に三叉神経痛と同じような
痛みが出てくることがありますが、これは帯状疱疹によって、
三叉神経が障害されたせいで起こる痛みといわれています。
【額関節痛】
耳の前には、顎関節といって顎の骨と頭蓋骨のくっつく部分があります。
ものをかむときに顎を動かすと、この関節に痛みがでる場合があり、
また顎を動かさなくても痛むこともあり、三叉神経痛と間違えられます。
口腔外科などでレントゲンや触診、問診をすることによって区別ができます。
【群発頭痛】
群発頭痛は、眼の周りや目の奥に激しい痛みを起こします。
痛みの性質としては、激痛で、眼をえぐられるような痛みが起こります。
三叉神経痛と同様に非常に強い痛みですが、三叉神経痛よりも痛みが長いです。
また痛みに伴って、痛む側の眼から涙が流れたり、鼻水が出たりします。
【副鼻腔炎】
副鼻腔炎は、風邪に引き続いて起こることが多く、顔面痛や顔面の発赤・
腫張・発熱を伴います。ひどいときは目の痛みを伴うこともあります。
鼻鏡検査で鼻粘膜を観察し、細菌検査やX線検査で、三叉神経痛と区別できます